本屋大賞候補となっている伊吹有喜さんの『犬がいた季節』を読みました。
『犬がいた季節』はもうすぐ卒業を迎える高校生たちを描いた6編の連作短編集。
著者が高校生だった時実際にあった出来事を参考に書かれているそうです。
読了後は青春時代を思い出し、優しく温かい気持ちになれる良作でした。
本書のあらすじを含めた作品紹介、読後感想を語っていきたいと思います。
『犬がいた季節』作品紹介
本書のあらすじ、実話かどうかについて紹介していきます。
あらすじ
三重県にある進学校・八陵高校。
そこに迷い犬としてやってきて、その後12年間学校で飼われることになったふわふわの白い犬・コーシロー。
コーシローが見守る5つの年代の高校生たちと令和元年を描いた連作短編集。
昭和63年度卒業生
家族に翻弄されながらも自分自身で進路を決め、新たな道を進む決意をする優花の物語。
平成3年度卒業生
性格も成績も進路も違う2人相羽と堀田。鈴鹿サーキットでのF1観戦をきっかけに、かたい友情が芽生える。
平成6年卒業生
阪神大震災、地下鉄サリン事件をきっかけに生死について見つめ直す奈津子の物語。
平成9年度卒業生
自らの境遇を変えようと必死でもがく詩乃が、音楽に打ち込む鷲尾に勇気付けられ、新たな道へ進み始める。
平成11年卒業生
美大をめざす大輔、英語の優香先生に抱く仄かな恋心。
令和元年夏
八陵高校創立百周年の式典。それぞれの道を歩む卒業生たちが再び集い…
『犬がいた季節』は実話なの?
著者の伊吹有喜さんは三重県四日市市のご出身です。
伊吹さんが四日市高校の学生だった時、実際学校に一匹の犬が住み着いていたそうです。
当時の母校の様子や実在した犬をモデルにして本書を執筆したといいます。
つまり実話を基にした小説ということですね。
また、物語の中での街並みの様子は実際の四日市市を参考に描かれています。
よっかいちフィルムコミッションによって、「犬がいた季節 散策マップ」が作られています。
こちらも参考にして情景を思い描きながら読んでみてください。
「犬がいた季節 散策マップ」は以下のリンクから見ることができます。
https://yokkaichi-fc.jp/wp-content/uploads/2020/10/inugaitakisetu.pdf
『犬がいた季節』感想
本書の読みどころ(キーポイント)を紹介しながら感想を語っていきたいと思います。
点と線の物語構成
卒業まじかの短い時(点)を過ごす高校生の主人公視点の物語を描きながら、別れと出会いを繰り返す高校生たちを見守り続けた犬のコーシローによる12年間の線の物語でもあります。
あの日あの時高校生だった読者が、自分の高校時代を思い出し小説の中の高校生たちに重ねることができると共に、高校で12年間飼われた犬のコーシロー目線で、3年間在籍しては去っていく高校生たちの成長を見守るような視点でも読める物語でした。
書き込まれた時代背景
物語の中にその時代を代表する事件や流行が取り入れられていて、その時代の空気感をはっきりと感じることができました。
例えば写ルンです、プリンセスプリンセスのDiamond、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、ルーズソックス、GLAYのHOWEVER、ドリカムのLOVE LOVE LOVEなどが物語重要な要素となっています。
本書の表紙絵やタイトルはそれほどキャッチーではないですが、読んだ後に見返すと味わい深いものがあります。
最近は表紙やタイトルをインパクトの強いものにして、興味を惹きつけようとする本が多い気がしますが、本書は中身で勝負!といったところでしょうか。
特別に大きな事件が起こるとか今までにない新鮮な設定というわけではないのですが、丁寧に紡がれた良書でした。
読了後は優しく温かい気持ちになります。
とても好みな物語でした。
興味を持った方はぜひ手に取ってみてください。
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