第59回メフィスト賞受賞にして
2020年の本屋大賞 第3位受賞。
『線は、僕を描く』は事故によって両親を失い、深い喪失感の中で生きる青年が、水墨画に出会って生きる力を取り戻していく青春求道小説です。
作者の砥上裕將さんは、作家であるうえに水墨画家でもあります。
作者自らが春蘭と菊の水墨画を描いている動画がyoutubeにアップされていました。
この動画を見てから小説を読むと、より深く物語を理解できますよ。
『線は、僕を描く』水墨画動画
本書のあらすじと読みどころを含めた感想を紹介していきます。
『線は、僕を描く』あらすじ
大学生の僕、青山霜介(そうすけ)は、巨大な展示場でパネル運びのアルバイトを終えたあと、会場内で小柄な老人と知り合う。
「ちょっと見ていくかい?」の問いかけに何百もの水墨画が掛けられた展覧会場をまわり、老人に感想を聞かれては思いついたことを語っていく。
じつは、その老人は日本を代表する水墨画の巨匠、篠田湖山だった。
すばらしい眼を持っていると湖山に気に入られた霜介は、その場で内弟子にされてしまう。
湖山の師事を受け、戸惑いながらもしだいに水墨画にのめり込んでいく霜介。
両親を事故で亡くしてから癒えることのない孤独と深い悲しみを抱えてきた霜介は、白紙に線を描く水墨画の作業に没頭することでしだいに自分を取り戻していく。
感想・まとめ
主人公霜介が水墨画のことを何も知らないところから物語がスタートするので、読者も一緒に基礎から水墨画のことを知ることができます。
芸術における美を言葉で表現するのはとても難しいと思うのですが、水墨画の白と黒で描かれる「線の美」が文章からもよく伝わってきました。
面白いのはタイトルですよね。
読み終えるとその意味がわかってなるほど!と思うのですが、「僕は、線を描く」ではなくて「線は、僕を描く」と、主語は水墨画にあるところに注目です。
そして、彼を取り巻く登場人物達も個性的で魅力的に描かれています。
湖山先生は霜介を温かく見守り導くメンターのような存在。
湖山の孫娘・千瑛(ちあき)はライバルでもあり心を通わせしだいに恋心を抱く相手。
湖山の内弟子・西濱さんと斉藤さんは全く違う性格・画風を有し、刺激を与えてくれる先輩。
古前くんは空気を読まずに自分の都合で霜介を引っ張り回す悪友。
青春期に、こんな人間関係があったら最高だなと思いました。
なんだかアニメ化やマンガ化しそうな小説だなと思いながら読んでいたら、やっぱり漫画が出でました(笑)
- 発売日: 2019/09/17
- メディア: Kindle版
週刊少年マガジンで連載していたそうです。
読み終えてみて、まさか水墨画をめぐる小説がこれほどまでに心を揺さぶる物語であるとは思いもしませんでした。
千瑛との関係は進展していくのか、霜介は水墨画によって自らの道を切り開いていけるのか、続きが気になって仕方ないです。
続編希望!
青春求道小説として、力強く胸に迫る物語でした。
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